COLUMN

スウェーデンの暮らしの中から
見つけたデザイン

column 01
水の都、ストックホルム

 北欧のベニスともいわれる、スウェーデンの首都、ストックホルム。メーラレン湖に浮かぶ市庁舎や、旧市街の美しさは何度訪れてもその姿を変えることなく、静かに私を迎えてくれます。
 アルバムに残した私の歴史は、乳母車に乗せられていた赤ちゃんのころから現在まで、全く同じ風景に見守られています。
ここに暮らす人たちが、自然を愛し街に育てていることは、長い年月を隔てた一枚の古い写真を見ただけでも実感できます。何十年も何百年も愛され続けている街は、凛とした佇まいで、訪れた人たちの目を奪います。
 ストックホルムの街は、こうした旧い建物をそのまま残した区域と、近代的な建物が並ぶ区域が、はっきりと分かれているのですが、いつも羨ましく、そして感心させられるのは、旧い物との共存した暮らしが、とても上手な点です。建物は同系色の落ち着いた色で統一されていて、日本でもよく見かけるコンビニエンスストアでさえ、街並みの風景を損なうことのない配慮がされています。

 何世紀もかけて、都市計画が成されてきたことがよくわかります。
 川上家がストックホルムで拠点としている場所は、街の中心部にある船着き場を通り、向かい側に立つ王立劇場の角を上ったところにあります。
 一八六〇年代に建てられたアパートメントが並ぶ、その通りの一角にある私たちの部屋は広さは七十平米ほどですが、アール・ヌーボー調の古いエレベーターや高い天井、木枠の二重窓と旧式のヒーターなどが歴史を感じさせてくれます。
 同じ建物に住んでいるおじいさんの部屋に招かれたことがありますが、代々受け継がれてきた木の椅子が、家族の歴史を支えてきた喜びをかもしだしていて、幾度も塗り変えられたであろう壁や家具たちも、とても暖かい温もりを与えてくれました。

 私たち家族も、この部屋に越して来たとき、前の住人が残して行ってくれたソファや本棚、テーブルなど一式全部を、何日もかけてペンキで真っ白に仕上げました。
 キッチンには旧い冷蔵庫と、マッチで火をつけなければならない旧式のオーブンレンジ。
 さすがに水周りだけはすべて処分して新しい物に買い替えなければと思ったのですが、冷蔵庫の中から出てきたのは、一九四五年の取扱い説明書でした。結局、丸みを帯びたその愛らしい冷蔵庫は白く塗りなおして、ドアを開ければ本棚として活躍しています。
 普段、ペンキなど塗ったことのなかった私も次々と生まれ変わっていく、部屋の雰囲気が楽しくて、とにかく塗れる限りの物を塗りまくった甲斐があり、いまでは見渡す限り真っ白な物たちに囲まれています。
 世界的に、流行は六〇年代や七〇年代に戻っていますが、旧い感じの新しい物を楽しむのとは違い、実際に旧い物に愛着を持って、修理したり、磨いてあげながら、次世代に伝えるという作業は、受け渡す側も受け取る側も、物に対する礼儀と優しさが必要なんだなぁと、この街から教わります。

川上信二
川上玲子
川上麻衣子